公益資本主義

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企業は社会において極めて重要な存在であるが、その存在がプラスになるかマイナスになるかは経営者の経営方針次第である。不幸なことに、1970年代から普及した市場万能主義・株主至上主義の思想は、社会を犠牲にしてまで儲かろうとする不健全な経営を促している。公益資本主義の研究では近代アメリカにおける不健全な経営を分析した上、利益と公益のバランスを取り戻すための経営方式と経済制度の条件を探っている。

研究の問題意識 アメリカの現状

アメリカ社会は良いところがたくさんありますので、決して全面的に否定している訳ではありませんが、経済制度および企業経営においては深刻な問題があります。研究の報告書に細かく分析していますが、例えば経済の「金融化」があります。本来ならば金融業界は実業を支えるために存在しますが、アメリカの金融業界は大きく膨らんでしまって、むしろ実業を妨げるようになりました。2008年のリーマン・ショックももちろんその結果です。そして真の価値を作る実業より金融業の方が儲かるようになりました。非生産的な投機で儲かるヘッジファンドは代表的な例ですが、ヘッジファンドのマネージャーは想像のつかない報酬を受け取っています。下記の図の通り、2007年ではヘッジファンド・マネジャーの上位10人の個人報酬の合計はトヨタ自動車の利益を超えました。残念ながらこうしたマネーゲームはまだ勢い良く続いています。

ヘッジ・ファンド・マネジャー上位10人の個人報酬

公益資本主義研究で目指していること

経済学、政治学、経営学、組織論などの既存研究から、私どもはより良い経済制度をつくることが可能であると確信しています。簡単ではありませんが、社会制度(法律、価値観、習慣など)の再設計を通じて、投機などの非生産的なゼロ・サム・ゲームを抑えて、社会の発展につながるプラス・サム・ゲームを促進することができます。企業の経営者に求めることはプラス・サム・ゲームの設計と維持です。

研究を始めたきっかけ

ハーバード・ビジネス・スクールに入学し、アメリカ流の資本主義を疑問に思うようになった。MBAの授業では、借金を増やすことによって税金を減らす、労働組合との契約を破り賃金を減らす、という株主価値を上げる方法を教えられた。このように社会や社員を犠牲にしてまで株価を上げようとする経営に深い違和感を持った。そこからアメリカ社会の健全性を疑うようになった。2006年の秋にこの疑問について恩師のジェームズ・アベグレン先生にご相談し、自分で分析し始めた。研究すればするほど、アメリカの抱えている問題が明確になった。膨大な財政赤字、崩壊するソーシャル・キャピタル先進国第一の肥満率高い乳児死亡率低下する実質賃金など、調べるほど母国の成り行きが不安になった。それから、ハーバード・ビジネス・スクールの教える株主至上主義がその問題の一因であろうと考えるようになった。

公益資本主義の研究チーム(左後ろから時計回りに:イーサン・バーンステン、デビッド・ジェームズ・ブルナー、デビッド・シン・グレウォル、ブラドリー・R・スタッツ、原丈二、野宮あす美)

2007年1月に同様な問題意識を持っている原丈人氏をご紹介頂き、資本主義の欠点とあるべき姿について一緒に研究することになった。その流れで2008年の9月に原丈人氏と野宮あす美氏と一緒に東京財団アライアンス・フォーラム財団の後援で公益資本主義研究プロジェクトを正式に立ち上げた。企業経営の社会における意味と責任を考えるために、ハーバード大学で政治経済を研究しているデビッド・グレイウォル氏、ハーバード・ビジネス・スクールの後輩のイーサン・バーンステン氏、ハーバード・ビジネス・スクールの同期のブラドリー・スタッツ氏の協力をお願いした。

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