リーマン・ショックから1年 金融資本主義から脱出できないアメリカ

2009年 9月 13日

世界不景気の引き金になったリーマン・ショックは未だ注目を集めていますが、恐ろしく偏ってしまった米国経済においてはリーマンの破綻は氷山の一角に過ぎません。マサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン教授によると、危機を生き抜いたバクレーズやゴールドマンはリーマンと同様なことをしていましたが、危機が起こる前に不良証券を他人に持たせることができ、そして政府にベールアウトを受けるほど影響力を持っていたから潰れなかっただけだそうです。

世界不景気の真因はリーマン・ショックではなく、投機的な金融事業が膨らみすぎたことにあります。リーマンやゴールドマンなどの投資銀行や陰で儲かるヘッジファンドは巨額な借り入れをして、借り入れた資金で短期的な利益を追求する投機に必死でした。借り入れた資金(レベレージ)を使って投機をすると勝った場合の利益が増えますが、負けた場合の損失も大きくなります。投機は真の価値を生まないゼロ・サム・ゲームですから、生産的な事業に使えるはずだった資源を無駄にしてしまいます。なおかつレベレージがかけられていると、金融制度を不安定にさせるリスクもあります。

金融業はなぜこうした無責任なことをするのか。人間の強欲ももちろん一因ですが、インセンティブの問題もあります。投資銀行やヘッジファンドは有限責任の法人ですから、利益が出た場合は株主と経営者は制限なく儲かることができますが、損失を抱えた場合は株主と経営者は個人の財産が保護されます。これでインセンティブが歪んでしまいます。ぎりぎりのところまで資金を借り入れて投機をして、儲かった利益を速やかに株主と経営者に分配します。それから危機が起きて会社が破産したとしても、有限責任ですから株主と経営者は以前分配された利益を取られることはありません。こうしたインセンティブが存在すれば無責任な投機が行われても不思議はありません。

政府のベールアウトによって問題はさらに悪化します。破産しそうになった会社は、リーマン・ショックで見える通り、破産すると経済を不安定にさせる恐れがあります。そこで政府が介入して、ベールアウトをします。結果的に、経済制度を脅かすほどの大規模の投機をすれば、巨額な損失を抱えた時に政府が救ってくれると経営者が予測しますから、経営者のインセンティブはさらに歪み、ますます大胆な投機に走ります。

こうした現象はアメリカで実際に起きています。有限責任がインセンティブを偏らせている問題はまず明確です。ベールアウトされた大手銀行の8社は、2000〜2007年の間、約18兆円の自社株買いで利益を株主に分配しました。それから危機が起きたらベールアウトで救われました。リーマンやベアスターンズは救われませんでしたが、生き残った大手銀行はますます大きくなっていますから、銀行の経営者はまた危なくなったら政府に救われると思うでしょう。

金融業界のインセンティブを直さなければ、金融危機が再発せざるを得ません。しかし残念ながらアメリカにおいてはリーマン・ショックから1年の時点では改革の見込みがあまりありません。ウォール街の味方であるサマーズ氏とガイトナー氏を金融政策の主要ポストに選任したオバマ政権も含めて、アメリカ政府は金融資本主義の思想から脱出できないようです。オバマ政権は銀行を救っている一方、投機を抑えるための規制作りに力を入れていません。銀行やファンドは国債CDS保険証券など、新しい投機対象を既に見つけています。報酬は危機以前の異常に高い水準に戻ろうとしています。

リーマン・ショックはアメリカにおいて資本主義の在り方を考え直す貴重な機会でしたが、見逃してしまっているようです。むしろ無責任な投機で危機を招いた金融機関を救って、不健全な金融資本主義の復活を促しています。日本はアメリカの失敗から学べると良いです。

ところで、友達から「やっぱりですます調が似合う」と言われましたので、これからはです・ます調で書きます。

スティグリッツ教授 ウォール街の言いなりになっているオバマ政権?

2009年 4月 17日

先日のポストでガイトナー・サマーズのベールアウト企画を批判したが、ノーベル賞を受賞したスティグリッツ教授も企画を同様に批判している。スティグリッツ教授の話によるとベールアウト企画は公的資金を株主とボンドホルダーに流す「とても悪い策」である。企画を設計した人間は「ウォール街の言いなりになっているか無能のどちらか」という。

金融寡頭制のアメリカ

2009年 4月 9日

国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミスト、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院教授のサイモン・ジョンソン先生はアメリカが一種の金融寡頭制であると書いている。1980年代以降の金融業利益の急上昇、国の権力者が金融業と政府を行き来すること、金融業を優遇する政策などに焦点をおいている。ベールアウトは不透明な仕組みで公的資金を金融業に流していることも強調している。駄目な銀行を速やかに国有化した上で、金融業の影響力を抑えるために巨大な銀行を分散させる必要があると提言している。

マネーゲームに流されるオバマ政権? ガイトナー・サマーズ企画について

2009年 4月 7日

金融危機の対策においては、オバマ大統領はガイトナー財務長官とサマーズ経済会議委員長に頼っている。ガイトナー氏とサマーズ氏にどこまで期待できるのであろうか。

ガイトナー氏とサマーズ氏は逆にマネーゲームを復活させようとしているようである。両氏に提案されているベールアウト企画は、複雑な仕組みで銀行・投機家・ファンドマネージャーに巨額なお金を渡してしまう。著名な経済学者は下記のように分析している。

ノーベル賞受賞者のポール・クルグマンの説明はここにある。小生なりに言い換えれば、こういうことである。政府は民間投資ファンドと組んで銀行から不良証券を購入する。不良証券を買うための資金は、民間の直接投資(7.5%)、政府の直接投資(7.5%)、政府の間接融資(85%)からなる。そこで、不良証券の価値が上がった場合、利益が直接投資のリターンになり、間接融資が全額返される。逆に不良証券の価値が下がった場合、損益が直接投資から引かれ、ファンドが損する。損益が直接投資の額を上回った場合、政府からの間接融資は「ノン・リーコース」であるため、上回った分が間接融資から引かれる。

上記の仕組みだと、結果的にファンドと銀行が儲かり、政府が損する。なぜなら数字でみよう。ある不良証券があると仮定する。この不良証券は確かめられない事情や経済の今後の動向などに影響されるので、価値が不確実である。50%の確立で50ドルの価値があり、50%の確立で150ドルの価値があると仮定しよう。平均では100ドルの価値に期待できる。ファンドが政府と組んでこの不良証券を100ドルで銀行から購入する。購入価格の85%は政府からの間接融資で、残りは政府(7.5%)とファンド(7.5%)の直接投資である。つまり民間投資家は7.5ドルの自己資金を投資し、残りは公的資金である。不良証券は実際に50ドルの価値しかない場合、民間投資家は投資した7.5ドルを全て失い、政府は42.5ドルを失う。150ドルの価値がある場合、ファンドも政府も25ドル儲かる。民間投資家からみて、50%の確立で7.5ドルの損益、50%の確立で25ドルの利益になるので、平均で8.75ドルの利益が期待できる。逆に政府は8.75ドルの損益が期待できる。要するに政府が間接融資でお金をファンドに流す。当然ながら、競売だと購入価格がより高くなるので、利益は銀行とファンドとで分けられるが、基本的なロジックは変わらない。

説明が長くなったが、結論としてはマネーゲームの起こした問題を新しいマネーゲームで解決する、という妙な企画である。しかも、この仕組みでは危険でない銀行でも不良証券を高く売却し儲かることができるので、問題の深刻さに関係なく公的資金を広くばらまいてしまうという点も懸念すべきであろう。

尚、このベールアウトはもっと恐ろしい側面がある。コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、「ガイトナー・サマーズ企画は我々が思った以上に悪いのだ」という記事で、銀行が新しいマネーゲームで公的資金を盗み取ることができるかも知れないという可能性を示している。こういう仕組みが考えられる。銀行は政府と組んで上記のような投資ファンドを作って、そのファンドで自社の不良証券を額面価格で購入する。そうすると、どの銀行でもこうしたファンドを経由して価値のない不良証券を額面価格で売却し、不良証券の損益の92.5%を政府に負わせることができるというとんでもない詐欺が起こる可能性がある。クルグマン教授も、サックス教授の記事にリンクして、この可能性を真剣に考える必要があるといっている

マネーゲームがアメリカ経済を崩壊させているのに、「チェンジ」を唱えてきたオバマ大統領はなぜ未だにマネーゲームを支える政策を提案するのか?サマーズ氏は過去一年間でマネーゲームの主役とも言える巨大なヘッジファンドに勤め、5億円を超える報酬を受取った事実が4月5日に明確になった。