株主至上主義の実害 シモンズ・ベッディングの事例

2009年 10月 18日

ニュー・ヨーク・タイムズの記事では、短期志向で強欲な株主がシモンズ・ベッディング(Simmons Bedding Company)を崩壊に導いた経緯が詳しく書いてあります。シモンズは133年の歴史を持っている長寿企業ですが、1991年から投資ファンドによる買収が7回も繰り返されました。買収するたびに借金を増やされて、株主に資金を吸い取られました。住宅不動産バーブルが崩壊した時、マットレスの需要が落ち込んで、財務基盤の弱っているシモンズが破産しました。リストラは既に従業員の25%を超えており、企業の将来が不確実です。債権者も巨額の損失を受けそうです。

しかし株主は最後までも企業の価値を吸い取り続けて、シモンズが破産したのにもかかわらず、結局儲かることが出来ました。最後にシモンズを買収したTHL社は、買収の際に3.27億ドルの資金を投資しました。しかしその後、シモンズ社に巨額な借金をさせて、そしてその借り入れた資金の大部分をTHL社への3.75億ドルの配当に使わせました。その上にTHL社はシモンズ社から0.28億ドルの管理費を吸い取りました。

週刊ダイヤモンドの特別寄稿(「公益資本主義の確立に向けて(下)」10月17日号)では投資家と従業員がゼロ・サム・ゲームに陥るリスクについて話をしていますが、シモンズはその明確な事例ではないでしょうか。

公益資本主義について議論するブロッガー

2009年 10月 15日

昨日、公益資本主義を批判しているブロッガーのコメントを取り上げましたが、実は多くのブロッガーは公益資本主義を取り上げて、建設的なコメントを書いて下さっています。いくつかご紹介したいと思います。

このコメントが正しいとは限りませんが、今の段階では市民が一緒に「公益とは何か?」や「公益と資本主義との関係はなにか?」などの質問について真剣に話し合うことではないでしょうか。ぜひ、これから有意義で活発なディスカッションをしましょう。

団塊世代Aの暇つぶしブログさんから

公益資本主義とは、極めて普通の資本主義的考え方であると思う。
18世紀イギリスの近代経済学の祖とも言われるアダムスミスが、主著の「諸国民の富」という本の中で使った市場経済における「神の見えざる手」、これこそが資本主義の根本の考え方であるが、アダムスミスはこの「見えざる手」が機能する前提として、市場に参加する個々の人々が、自分の利益を最大化するために最も合理的な行動をとることを前提としていた。アダムスミスは、一方では、道徳哲学者であり、「道徳感情論」という著作もあり、個々人の行動の前提として、道徳、つまり、相手を思いやる同情の感情があって始めて市場が成り立つと考えていたようです。(参考ブログ:アダムスミス) かのアダムスミスでさえも、グローバル市場原理主義的な考え方ではなかったのである。…

いずれにしても、最近の株主至上主義的な資本主義が、大いに間違った考え方であることが、ここ直近の経済危機の中でようやく認知されて来たことは大いに歓迎すべきである。その意味で、この公益資本主義の考え方は、言わば、従来の日本的な経営理念を体現した考え方ではないかと思う。まだまだ、理論的に確立された、具体的なものではないのかも知れない。また、この資本主義の形態を実現するための社会的制度や法人税や株式関係の税制と言った政策面での検討が必要であろう。

役員サロンさんから

経営のあり方について、我社の歴史を見るとき、「企業は人なり」、「企業は公器なり」ということが根底に流れている。社員を最重要資源として育成し、その力を存分に発揮してもらうことが「企業は人なり」であり、事業を進めるに当たり、その仕事を通じて社会に貢献するという仕事への取り組み方(心がまえ)こそが、「企業は公器なり」という考え方なのである。

辻井の目線さんから

この考え方は、決して原氏の独創ではなく古くからこれを唱える学者などは大勢いたのだが、今、氏の主張はまさに時を得ているし、原氏の場合、何よりも行動を伴っているのが素晴らしい。…

利益至上の資本の原理は結局どこかで行き詰まることが、今次々に証明されようとしている。…

全ての市場のプレーヤーに、社会を思う「公益」の自覚がなくては共倒れが待っている。

NightWalker’s Investment Blogさん

公益資本主義の5つのポイント

  • 会社は株主のもの → 従業員、取引先、経営陣、株主のバランスが重要
  • 経営陣のストックオプション → 株価を気にして短期志向になるので排除すべき
  • 高すぎるCEOの給与 → 一般従業員の300倍以上は極端。公平な利益分配を。
  • 投資ファンドの放任 → 短期利益を追求し、企業活動を妨害するファンドを規制
  • 内部留保より配当重視 → 長期的な研究開発への投資を優先し、剰余分を配当に

要は今の資本主義は、短期利益ばかりを追求する結果になりがちで、企業は長期投資しずらくなっている、というわけなんです。

ガレリア・レイノ社長ブログさんから

当社のクレドも、「職業を通して、社会に貢献していくことが私たちの使命です。」というもので
すので、この人の主張する、「公益資本主義」の経営へという考え方には共感を持ちました。

池田信夫教授のコメントについて

上武大学大学院の池田信夫教授は週刊ダイヤモンドで連載された公益資本主義の論文に対し、ブログに批判を掲載しています。第一に批判しているのはゲーム理論の事例ですが、ゲームの設計の正しい理解に基づいていない批判です。

ダイヤモンドの論文に載せているゲームは、通常の囚人ディレンマではなく、企業のイノベーション活動を説明するためのゲームです。そこで、論文に記述の通り、「従業員と投資家の各プレーヤーはそれぞれ二万円の価値・・・を事業に投入する」(1017日号:136ページ)という背景があります。この事例では二人のプレーヤーが協力しなければイノベーションが生まれないという前提をおいておりますので、「裏切る」を選ぶプレーヤーがいると、投入された価値が吸い取られるだけです。例えば、一人のプレーヤーが「協力」を選択し、一人のプレーヤーが「裏切る」を選択すると裏切ったプレーヤーが投入された価値の全てをもらい、協力したプレーヤーは投入した価値を失います。従って、前提からゼロ・サム・ゲームになります。二人のプレーヤーが「協力」を選べば、イノベーションが成功し、新しい価値が生まれ、投入した価値を上回るプラス・サムの結果になります。

このゲームはウォートン・スクールのマリー・オサリバンのイノベーション論をベースに作りましたが、当然ながら企業のイノベーション活動をどこまで正確にモデルできているかについては議論する余地があると思います。

また、池田教授の下記のご指摘について、簡単にお答えしたいと思います。

「すべての関係者が満足できるプラスサムゲームを目指すことが経営者の責任である」という文章も意味をなさない。

このご指摘に賛同する経済学者はミルトン・フリードマンを始めに数多くいると思います。なお、ジェフリー・フェッファー、ヘンリー・ミンツバーグなどの著名な経営学者は、「ステークホルダー型経営」を重要視しています。そして、ハーバード・ビジネス・スクールのラケシュ・クラナ教授は、こうした責任を経営者に持たせる可能性について、丁寧に研究をしています。ご関心のある方は「マネジャー版『ヒポクラテスの誓い」をご参照下さい。

それを実現する「制度設計」として原氏の提案する「利益を公平に分け合う公益資本主義」なるものも、具体的な内容のない美辞麗句を連ねただけだ。

無駄なゼロ・サム・ゲーム(再配分活動)を抑制し、プラス・サム・ゲーム(生産的な活動)を促す制度(インスティテゥーション)は、社会の繁栄において極めて重要であること、経済学ノーベル賞受賞者のダグラス・ノース教授の研究から明確です。こうした制度設計はまだ未熟な分野で研究が必要ですが、週刊ダイヤモンド10月10日号のコラムでは原氏がいくつかの具体的な提案を出しています。

漠然と「長期的な協力が必要だ」というが、かつて「長期的視野の経営」として賞賛された日本的経営が、どういう末路をたどったか知らないのだろうか。

日本的経営の権威のジェームズ・アベグレン先生は私の恩師でした。この研究で目指していることは、日本的経営の復活ではなく、日本の経営とアメリカの経営から学んで、新しい経営理論を構築することです。

公益資本主義の発想はまだ若いので、これから経済、経営、法律、政治、組織、イノベーションなどの専門知識を反映させていくことが重要だと考えています。引き続き、活発で有意義なディスカッション、どうぞよろしくお願い致します。

週刊ダイヤモンド 「公益資本主義の確立に向けて(上)」

2009年 10月 5日

公益資本主義研究の特別寄稿は週刊ダイヤモンドの10月10日号(10月5日発売)に載りました。株主至上主義・至上万能主義に陥ったアメリカ経済の問題を分析して、資本主義を考え直す必要性を明確にしています。10月17日号に載る記事の続きでは、公益資本主義の思想を説明して、改革の方向性について書いています。ご関心のある方はぜひご覧になって下さい。

特別寄稿 「株主至上主義・市場万能主義の限界」

週刊ダイヤモンド 特別寄稿 「株主至上主義・市場万能主義の限界」

ワールド・アライアンス・フォーラムと公益資本主義の定義

2009年 10月 3日

昨日、アライアンス・フォーラム財団主催の「ワールド・アライアンス・フォーラム」にて、公益資本主義研究のチーム・メンバーであるイーサン・バーンステン氏と野宮あす美氏と一緒にパネル・ディスカッションをしました。

ワールド・アライアンス・フォーラムでのパネル・ディスカッション。右からイーサン・バーンステン、デビッド・ジェームズ・ブルナー、野宮あす美

ワールド・アライアンス・フォーラムでのパネル・ディスカッション。右からイーサン・バーンステン、デビッド・ジェームズ・ブルナー、野宮あす美

ディスカッションでは公益資本主義を定義した上で、プラス・サムのイノベーションの重要性について説明しました。公益資本主義とは、丁寧に設計された自由市場を活かすことによって、非生産的なゼロ・サム・ゲームを抑制して、持続可能なプラス・サム・イノベーションを促す経済制度だと考えています。

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公益資本主義は市場原理を活かしながら賢い制度でプラス・サム・イノベーションを促す

村沢義久氏の提案する「燃やさない文明」

2009年 9月 21日

東京大学特任教授の村沢義久氏は、サステイナビリティ(持続可能性)の権威です。公益資本主義の研究では「持続可能性」を公益の必須条件として取り上げていますので、村沢氏の研究をご紹介したいと思います。「25%削減は不可能ではない 目指すは『燃やさない文明』」という記事では村沢氏は民主党の温暖化ガスに対する姿勢を分析しています。記事の結論は下記の通りです。

温暖化ガスの大幅削減には負担が伴うことは事実だが、自動車の電気化とメガソーラー推進は将来に対する投資であり、当然、大きな景気浮揚効果が期待される。日本は、エネルギー自給率を大幅に向上し、新たな国際競争力を獲得し、この歴史的な転換のリーダーシップをとる絶好の機会を逃してはならない。

持続可能性を追求することは短期にコストがかかる一方、プラス・サム・ゲームの新しい可能性を作っていきます。短期的な利益にとらわれている投機家やリスク回避志向に陥っている経営者は嫌がるでしょうが、長期的な視点で経営している企業にとっては貴重なチャンスでしょう。

公開会社法のあるべき姿 社外取締役よりプラス・サム・ゲームを促す制度

大久保勉参議院議員は9月7日号の日経ビジネスで「上場企業の企業統治を再構築」という記事で新しい公開会社法を提案しています。「利害関係者が多く、社会への影響の大きい上場企業」においては「適切な情報開示や企業統治を担保する法制が今こそ必要になっている」と書いています。なお、「適切な情報開示や企業統治」とはなんでしょうか。大久保氏は不祥事の防止に焦点をおいて、そして「監視の目を入れる」ことによって問題が解決できると期待しているようですが、アメリカの経験から言えばこれは間違った結論だと思います。新しい公開会社法は確かに必要ですが、「監視の目」より「プラス・サム・ゲームを促す制度」が重要でないでしょうか。

不祥事の防止は確かに重要ですが、不祥事より大きな問題があります。それは、一部の利害関係者(ステークホルダー)の短期的な利益を高めるために、社会への貢献に基づいた会社の長期的な発展を犠牲にする不健全な経営です。公益資本主義研究ではアメリカにおける不健全な経営を分析していますが、アメリカの上場企業では株主と上級経営者の短期的な利益を最優先する不健全な経営が一般的になっています。具体的には不公平な格差、過小投資、そして信頼関係の崩壊をもたらしています。しかしながらアメリカの上場企業における企業統治(コーポレート・ガバナンス)と透明性は高く評価されています。社外取締役も多いです。実はアメリカでは情報開示と企業統治が発展しているものの、企業の経営は1970年代からますます不健全になってきています。アメリカの経験から言えば、大久保氏の勧めている「情報開示や企業統治」の効果には必ずしも期待できるとは限りません。

驚くべきことに、アメリカの情報開示と企業統治は逆に不健全な経営を促しているようです。詳しい説明は公益資本主義の報告書にありますが、要するにアメリカでは企業統治の制度は短期志向の株主に偏っているが故に、長期的な経営を妨げてしまいます。例えば四半期決済という情報開示や「監視の目」を入れるアクティビスト投資家は、短期的に業績をつり上げるように経営者に圧力をかけます。また、社外取締役は会社のことを詳しく知らない上、会社へのコミットメントも正社員と比べて薄いので、会社の長期的な発展につながる意思決定をするとは限りません。

「監視の目」という発想にはもう一つ大きな問題があります。当然ながら、会社は新しい技術を開発したり、新しい事業を立ち上げたりするために資金を投資しなければ発展しません。新しい試みは不確実性が高いので、必然的に失敗を繰り返すことがあります。また、新しい試みは既存の事業と同じ体制では実現できないことも多いので、会社は柔軟に進化していけなければイノベーションが妨げられます。そこで「監視の目」を常に恐れている経営者は、リスク回避志向に陥って、不確実な研究開発や組織体制の変更に対して慎重になりすぎるでしょう。大久保氏は経営者に自由を与えることを懸念しているようですが、経営者に自由を与えなければ企業は発展しなくなって徐々に衰退していかざるを得ません。監視の目も必要不可欠ですが、それよりも経営者が自ら公益の実現につながる長期的な戦略を選ぶように制度を賢く設計することが大切だと考えています。

どういう制度を作れば経営者はステークホルダーを公平に扱いながら社会貢献を目的とした長期的な発展を選ぶのでしょうか。下記のような条件が考えられます。

  • 公開企業の存在意義と経営者の責任を明確にする — まずは企業統治制度の前提をはっきりさせる必要があります。公開企業は社会に貢献しながらステークホルダー全てのために価値を創出する独立した公器であって、株主のものではありません。経営者の責任は社会への貢献(公益)とステークホルダーの利益を公平にバランスしながら、持続可能なプラス・サム・ゲームを作っていくことであって、株主価値を最大化することではありません。
  • 「長期視点」と「ステークホルダーのバランス」を軸にした情報開示 — 財務諸表では株主や債権者における価値創出が評価できますが、これからは他のステークホルダーの観点から情報開示を考えないいけません。四半期決済など、短期的な投機ファンドのためにしかならない短期志向の情報開示は止めて、重要な利害関係者における価値創出が評価できるステークホルダー型情報開示を義務付けましょう。例えば顧客の満足度、社員の平均給料や離職率、上級経営者と一般社員の所得格差、納めた税金、エネルギー効率などの指標が考えられます。
  • 株主偏重の企業統治を止める — 現在の企業統治は短期志向の株主にとって極めて有利です。ストック・オプションなどの株価連動型報酬は企業の経営者の利害関係と株主のと合わせます。そして敵対的買収や株主提案権は短期志向の株主に強い武器を与えています。公開会社法では、経営者に株主の利益を最優先させる株価連動型の報酬を禁止にすべきでしょう。そして企業の経営が短期志向の株主によって歪まれないように、配当権や発言権を5年間の長期保有の株主に限ると良いでしょう。

経営者の自由は危険な側面もありますが、経営者が自らプラス・サム・ゲームを選ぶ制度を整っておけば経営者の自由は経済の発展につながるはずです。逆に株主偏重の情報開示と企業統治はプラス・サム・ゲームを壊して、短期志向の経営を促進します。新しい公開会社法ではアメリカの失敗から学んでよりバランスのとれている情報開示と企業統治の制度を築けば、日本経済のさらなる発展につながると確信しています。

花王前会長による「新しい資本主義」のレビュー記事

花王前会長の後藤卓也氏は日経ビジネスの9月7日号に、公益資本主義研究を一緒に進めている原丈人氏の著書「新しい資本主義」をレビューしています。(9月21日現在、「新しい資本主義」はアマゾンの経済学新書のランキングでは2位となっています。)後藤氏は企業を経営しながら株主至上主義に対して疑問を抱くようになったそうです。レビュー記事では下記のように書いています。

社員がお客様のために一生懸命に働くことでしか会社は成長できない。業績も、株主への配当もその結果に過ぎない。

短期志向のアクティビスト投資家を厳しく批判しています。

とにかく配当を吹き出させて、株価が上昇したら売り抜ける。その後、企業がどうなろうと知ったことではない。

最後に公益資本主義に触れています。

作者が「金融資本主義」に代わるものとして考えているのは、事業を通じて「公益」に貢献することを最大の価値として認める「公益資本主義」。そこにこそ日本の活路がある、という著者の前向きさには、読後、勇気づけられる人が多いのではないか。

大企業経営の経験者である後藤氏のコメントは、公益資本主義の実現おいて大変意味のある評価だと思います。

アメリカの失われた10年 先進国はどうすれば発展できるのか

2009年 9月 15日

1990年代は日本の「失われた10年」とよく言われますが、最近出た統計で言えば直近10年はアメリカの失われた10年だったかも知れません。まずは雇用は10年で増えていません。下記の図表は週刊誌ビジネス・ウィークのチーフ・エコノミストのマイケル・マンデルのブログからですが、民間雇用の10年間の成長率を示しています。1950年以来、不況が起きたとしても、10年間で見れば雇用は成長していたものの、今回の不況では10年間の雇用成長率が初めてゼロを下回っています。1999年〜2009年のこの10年で、民間雇用は増えていません。

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民間雇用の10年間の成長率。マイケル・マンデルのブログ「エコノミック・アンバウンド」から。

給与動向を分析しても同様な結果です。世帯あたりの実質メディアン給与(給与の中央値、インフレ調整済み)は10年で約2%下がっています。政府から出ている時系列データは下記の通りです。

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世帯あたり実質給与の中央値。イメージをクリックすると拡大します。

日本とアメリカのような成熟で豊かな社会においては、経済成長は困難になってきているようです。組織論の観点から考えると驚くべき事情ではありません。成熟した組織は進化する力を失うことがむしろ自然な結末です。進化できない組織は環境の変化に適応できなくなって次第に衰退していきます。

経済成長を復活させることは可能でしょうか。また組織論の観点から考えてみると、組織においては発展能力を取り戻すことは非常に難しいですが、不可能ではありません。ブラドリー・スタッツ、マイケル・タッシュマン、デビッド・アプトンと一緒に、この課題を研究しています。結論から言うと、試行錯誤と実験が鍵だと考えています。組織に関して言えば、従来のやり方を意図的に壊して、そして新しいアイディアを探すことは、発展能力の基本です。これは「意図的パーターベーション」と名付けています。

その発想を経済全体に当てはめてみると、経済の更なる発展のためには、今あるものを意図的に壊して、社会を不安定にさせる必要があるかも知れません。これはシュンペーターの「創造的破壊」に似ているでしょう。しかし、私どもの研究では、壊し方の賢さに焦点をおいています。従来の制度を壊すと当然ながらコストが生じます。壊したことによって、コストを上回るベネフィットが得られなければいくら創造的破壊と言っても組織は衰退します。そこで、論文ではトヨタを事例にしていますが、従来のものを壊す時に、どこで壊すか、どのように壊すか、どこまで壊すか、という条件を真剣に考えます。ただ単に壊すために壊すのではなく、新しい学びを生む「実験」の形で「賢く壊す」ことによって進化します。

リーマン・ショックから1年 金融資本主義から脱出できないアメリカ

2009年 9月 13日

世界不景気の引き金になったリーマン・ショックは未だ注目を集めていますが、恐ろしく偏ってしまった米国経済においてはリーマンの破綻は氷山の一角に過ぎません。マサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン教授によると、危機を生き抜いたバクレーズやゴールドマンはリーマンと同様なことをしていましたが、危機が起こる前に不良証券を他人に持たせることができ、そして政府にベールアウトを受けるほど影響力を持っていたから潰れなかっただけだそうです。

世界不景気の真因はリーマン・ショックではなく、投機的な金融事業が膨らみすぎたことにあります。リーマンやゴールドマンなどの投資銀行や陰で儲かるヘッジファンドは巨額な借り入れをして、借り入れた資金で短期的な利益を追求する投機に必死でした。借り入れた資金(レベレージ)を使って投機をすると勝った場合の利益が増えますが、負けた場合の損失も大きくなります。投機は真の価値を生まないゼロ・サム・ゲームですから、生産的な事業に使えるはずだった資源を無駄にしてしまいます。なおかつレベレージがかけられていると、金融制度を不安定にさせるリスクもあります。

金融業はなぜこうした無責任なことをするのか。人間の強欲ももちろん一因ですが、インセンティブの問題もあります。投資銀行やヘッジファンドは有限責任の法人ですから、利益が出た場合は株主と経営者は制限なく儲かることができますが、損失を抱えた場合は株主と経営者は個人の財産が保護されます。これでインセンティブが歪んでしまいます。ぎりぎりのところまで資金を借り入れて投機をして、儲かった利益を速やかに株主と経営者に分配します。それから危機が起きて会社が破産したとしても、有限責任ですから株主と経営者は以前分配された利益を取られることはありません。こうしたインセンティブが存在すれば無責任な投機が行われても不思議はありません。

政府のベールアウトによって問題はさらに悪化します。破産しそうになった会社は、リーマン・ショックで見える通り、破産すると経済を不安定にさせる恐れがあります。そこで政府が介入して、ベールアウトをします。結果的に、経済制度を脅かすほどの大規模の投機をすれば、巨額な損失を抱えた時に政府が救ってくれると経営者が予測しますから、経営者のインセンティブはさらに歪み、ますます大胆な投機に走ります。

こうした現象はアメリカで実際に起きています。有限責任がインセンティブを偏らせている問題はまず明確です。ベールアウトされた大手銀行の8社は、2000〜2007年の間、約18兆円の自社株買いで利益を株主に分配しました。それから危機が起きたらベールアウトで救われました。リーマンやベアスターンズは救われませんでしたが、生き残った大手銀行はますます大きくなっていますから、銀行の経営者はまた危なくなったら政府に救われると思うでしょう。

金融業界のインセンティブを直さなければ、金融危機が再発せざるを得ません。しかし残念ながらアメリカにおいてはリーマン・ショックから1年の時点では改革の見込みがあまりありません。ウォール街の味方であるサマーズ氏とガイトナー氏を金融政策の主要ポストに選任したオバマ政権も含めて、アメリカ政府は金融資本主義の思想から脱出できないようです。オバマ政権は銀行を救っている一方、投機を抑えるための規制作りに力を入れていません。銀行やファンドは国債CDS保険証券など、新しい投機対象を既に見つけています。報酬は危機以前の異常に高い水準に戻ろうとしています。

リーマン・ショックはアメリカにおいて資本主義の在り方を考え直す貴重な機会でしたが、見逃してしまっているようです。むしろ無責任な投機で危機を招いた金融機関を救って、不健全な金融資本主義の復活を促しています。日本はアメリカの失敗から学べると良いです。

ところで、友達から「やっぱりですます調が似合う」と言われましたので、これからはです・ます調で書きます。

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