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アベグレン奨学基金研究員の選任

本日、小生の恩師だったジェームズ・アベグレン先生を記念する「ア ベグレン奨学基金」の研究員の第1号として選ばれたことが分かりました。アベグレン先生と不思議なご縁がありました。まず大学時代に上智大学へ見学に行った時に、たまたまアベグレン先生の講演でした。そして卒業後にアベグレン先生が立ち上げたボストン・コンサルティング・グループの東京オフィスに入社することになり、会社のイベントの関係でまたお目にかかりました。博士研究を始めてから東京を訪れる度にご相談に伺うようになりました。

アベグレン先生は第二次世界大戦が終わった直後から日本の経済と企業経営を研究され、「日本の経営」、「カイシャ」、「新・日本の経営」などの著書を出されました。ハーバード・ビジネス・スクールで勉強しながら英米流の株主至上主義に対して疑問を抱くようになった小生には、アベグレン先生の思想が非常に参考になりました。企業はお金を作る機械ではなく、長期的な発展を心掛けるコミュニティーであるというアベグレン先生のご指摘は、アメリカのビジネス・スクールでは見落とされている視点です。そして、アベグレン先生との会話は公益資本主義の研究を始めたきっかけの一つにもなりました。

従って、21世紀の資本主義のあるべき姿について研究をこれから進める経緯において、アベグレン奨学基金の後援を賜ることは誠に幸甚です。

池田信夫教授のコメントについて

上武大学大学院の池田信夫教授は週刊ダイヤモンドで連載された公益資本主義の論文に対し、ブログに批判を掲載しています。第一に批判しているのはゲーム理論の事例ですが、ゲームの設計の正しい理解に基づいていない批判です。

ダイヤモンドの論文に載せているゲームは、通常の囚人ディレンマではなく、企業のイノベーション活動を説明するためのゲームです。そこで、論文に記述の通り、「従業員と投資家の各プレーヤーはそれぞれ二万円の価値・・・を事業に投入する」(1017日号:136ページ)という背景があります。この事例では二人のプレーヤーが協力しなければイノベーションが生まれないという前提をおいておりますので、「裏切る」を選ぶプレーヤーがいると、投入された価値が吸い取られるだけです。例えば、一人のプレーヤーが「協力」を選択し、一人のプレーヤーが「裏切る」を選択すると裏切ったプレーヤーが投入された価値の全てをもらい、協力したプレーヤーは投入した価値を失います。従って、前提からゼロ・サム・ゲームになります。二人のプレーヤーが「協力」を選べば、イノベーションが成功し、新しい価値が生まれ、投入した価値を上回るプラス・サムの結果になります。

このゲームはウォートン・スクールのマリー・オサリバンのイノベーション論をベースに作りましたが、当然ながら企業のイノベーション活動をどこまで正確にモデルできているかについては議論する余地があると思います。

また、池田教授の下記のご指摘について、簡単にお答えしたいと思います。

「すべての関係者が満足できるプラスサムゲームを目指すことが経営者の責任である」という文章も意味をなさない。

このご指摘に賛同する経済学者はミルトン・フリードマンを始めに数多くいると思います。なお、ジェフリー・フェッファー、ヘンリー・ミンツバーグなどの著名な経営学者は、「ステークホルダー型経営」を重要視しています。そして、ハーバード・ビジネス・スクールのラケシュ・クラナ教授は、こうした責任を経営者に持たせる可能性について、丁寧に研究をしています。ご関心のある方は「マネジャー版『ヒポクラテスの誓い」をご参照下さい。

それを実現する「制度設計」として原氏の提案する「利益を公平に分け合う公益資本主義」なるものも、具体的な内容のない美辞麗句を連ねただけだ。

無駄なゼロ・サム・ゲーム(再配分活動)を抑制し、プラス・サム・ゲーム(生産的な活動)を促す制度(インスティテゥーション)は、社会の繁栄において極めて重要であること、経済学ノーベル賞受賞者のダグラス・ノース教授の研究から明確です。こうした制度設計はまだ未熟な分野で研究が必要ですが、週刊ダイヤモンド10月10日号のコラムでは原氏がいくつかの具体的な提案を出しています。

漠然と「長期的な協力が必要だ」というが、かつて「長期的視野の経営」として賞賛された日本的経営が、どういう末路をたどったか知らないのだろうか。

日本的経営の権威のジェームズ・アベグレン先生は私の恩師でした。この研究で目指していることは、日本的経営の復活ではなく、日本の経営とアメリカの経営から学んで、新しい経営理論を構築することです。

公益資本主義の発想はまだ若いので、これから経済、経営、法律、政治、組織、イノベーションなどの専門知識を反映させていくことが重要だと考えています。引き続き、活発で有意義なディスカッション、どうぞよろしくお願い致します。