Tag Archives: 投機

金融取引税で投機を抑えよう

投機は価値を取り合う、非生産的な活動です。そして市場の動きが激しくなればなるほど投機家が儲かります。その儲けに惹かれて、投機家が増えます。投機家が増えると当然なことに短期的な売買も増えて、結果的に市場の動きがさらに激しくなります。この悪循環で投機活動が膨らんで、生産的な経済活動に使えたはずの資源が投機に費やされてしって、経済成長が妨げられます。健全な経済を維持するために投機を抑える必要がありますが、これはどのように出来るでしょうか。

一つの答えはトービン・タックス(Tobin Tax)という金融取引税です。ポール・クルーグマン(Paul Krugman)は先週のニュー・ヨーク・タイムズで提案しています。以下、「投機家を課税する」(Taxing the Speculators)という記事の要点をまとめます。

  • 金融取引税はイギリスを含む欧州の国々が賛成しているものの、ティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)を始めとするアメリカの官僚は強く反対している
  • トービン・タックスという金融取引税のアイディアは、経済学のノーベル賞を受賞したイェール大学ジェームズ・トービン(James Tobin)教授に1972年に提案された
  • 為替にトービン・タックスをかければ、長期投資や実物取引を目的にしている場合には負担が極めて小さいが、日々無数の取引を繰り返している投機家にとっては大きなコストになる
  • 為替の取引に限らず全ての金融商品にトービン・タックスをかけると、ウォール街やシティ・オブ・ロンドンで行われている非生産的な金融活動を抑制しつつ、政府の収入源になる
  • この提案に反対している者は実行が難しいと言うが、実際には金融取引が集中しており、比較的に実行しやすいはずだ
  • 短期的な投機マネーの動きが金融危機の一因だったので、トービン・タックスは将来の危機の予防にもつながる
  • オバマ政権はウォール街の影響を受け過ぎている

クルーグマンのロジックに完全に賛成です。トービン・タックスは非生産的な投機を抑えることによって市場の動きを鎮め、長期投資をしやすくします。しかも収入源になります。

アメリカは投機家を代表するヘッジ・ファンド・マネージャーが1000億円を超える個人報酬を受ける投機王国ですから、ウォール街の言いなりになっているオバマ政権が導入しないでしょう。そこで日本は世界をリードして導入したらよいのではないでしょうか。欧州もフォローするでしょう。

トービン・タックスの詳しい分析はセンター・フォア・エコノミック・アンド・ポリシー・リサーチ(CEPR)の白書をご参考下さい。

リーマン・ショックから1年 金融資本主義から脱出できないアメリカ

世界不景気の引き金になったリーマン・ショックは未だ注目を集めていますが、恐ろしく偏ってしまった米国経済においてはリーマンの破綻は氷山の一角に過ぎません。マサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン教授によると、危機を生き抜いたバクレーズやゴールドマンはリーマンと同様なことをしていましたが、危機が起こる前に不良証券を他人に持たせることができ、そして政府にベールアウトを受けるほど影響力を持っていたから潰れなかっただけだそうです。

世界不景気の真因はリーマン・ショックではなく、投機的な金融事業が膨らみすぎたことにあります。リーマンやゴールドマンなどの投資銀行や陰で儲かるヘッジファンドは巨額な借り入れをして、借り入れた資金で短期的な利益を追求する投機に必死でした。借り入れた資金(レベレージ)を使って投機をすると勝った場合の利益が増えますが、負けた場合の損失も大きくなります。投機は真の価値を生まないゼロ・サム・ゲームですから、生産的な事業に使えるはずだった資源を無駄にしてしまいます。なおかつレベレージがかけられていると、金融制度を不安定にさせるリスクもあります。

金融業はなぜこうした無責任なことをするのか。人間の強欲ももちろん一因ですが、インセンティブの問題もあります。投資銀行やヘッジファンドは有限責任の法人ですから、利益が出た場合は株主と経営者は制限なく儲かることができますが、損失を抱えた場合は株主と経営者は個人の財産が保護されます。これでインセンティブが歪んでしまいます。ぎりぎりのところまで資金を借り入れて投機をして、儲かった利益を速やかに株主と経営者に分配します。それから危機が起きて会社が破産したとしても、有限責任ですから株主と経営者は以前分配された利益を取られることはありません。こうしたインセンティブが存在すれば無責任な投機が行われても不思議はありません。

政府のベールアウトによって問題はさらに悪化します。破産しそうになった会社は、リーマン・ショックで見える通り、破産すると経済を不安定にさせる恐れがあります。そこで政府が介入して、ベールアウトをします。結果的に、経済制度を脅かすほどの大規模の投機をすれば、巨額な損失を抱えた時に政府が救ってくれると経営者が予測しますから、経営者のインセンティブはさらに歪み、ますます大胆な投機に走ります。

こうした現象はアメリカで実際に起きています。有限責任がインセンティブを偏らせている問題はまず明確です。ベールアウトされた大手銀行の8社は、2000〜2007年の間、約18兆円の自社株買いで利益を株主に分配しました。それから危機が起きたらベールアウトで救われました。リーマンやベアスターンズは救われませんでしたが、生き残った大手銀行はますます大きくなっていますから、銀行の経営者はまた危なくなったら政府に救われると思うでしょう。

金融業界のインセンティブを直さなければ、金融危機が再発せざるを得ません。しかし残念ながらアメリカにおいてはリーマン・ショックから1年の時点では改革の見込みがあまりありません。ウォール街の味方であるサマーズ氏とガイトナー氏を金融政策の主要ポストに選任したオバマ政権も含めて、アメリカ政府は金融資本主義の思想から脱出できないようです。オバマ政権は銀行を救っている一方、投機を抑えるための規制作りに力を入れていません。銀行やファンドは国債CDS保険証券など、新しい投機対象を既に見つけています。報酬は危機以前の異常に高い水準に戻ろうとしています。

リーマン・ショックはアメリカにおいて資本主義の在り方を考え直す貴重な機会でしたが、見逃してしまっているようです。むしろ無責任な投機で危機を招いた金融機関を救って、不健全な金融資本主義の復活を促しています。日本はアメリカの失敗から学べると良いです。

ところで、友達から「やっぱりですます調が似合う」と言われましたので、これからはです・ます調で書きます。