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株主至上主義の実害 シモンズ・ベッディングの事例

ニュー・ヨーク・タイムズの記事では、短期志向で強欲な株主がシモンズ・ベッディング(Simmons Bedding Company)を崩壊に導いた経緯が詳しく書いてあります。シモンズは133年の歴史を持っている長寿企業ですが、1991年から投資ファンドによる買収が7回も繰り返されました。買収するたびに借金を増やされて、株主に資金を吸い取られました。住宅不動産バーブルが崩壊した時、マットレスの需要が落ち込んで、財務基盤の弱っているシモンズが破産しました。リストラは既に従業員の25%を超えており、企業の将来が不確実です。債権者も巨額の損失を受けそうです。

しかし株主は最後までも企業の価値を吸い取り続けて、シモンズが破産したのにもかかわらず、結局儲かることが出来ました。最後にシモンズを買収したTHL社は、買収の際に3.27億ドルの資金を投資しました。しかしその後、シモンズ社に巨額な借金をさせて、そしてその借り入れた資金の大部分をTHL社への3.75億ドルの配当に使わせました。その上にTHL社はシモンズ社から0.28億ドルの管理費を吸い取りました。

週刊ダイヤモンドの特別寄稿(「公益資本主義の確立に向けて(下)」10月17日号)では投資家と従業員がゼロ・サム・ゲームに陥るリスクについて話をしていますが、シモンズはその明確な事例ではないでしょうか。

週刊ダイヤモンド 「公益資本主義の確立に向けて(上)」

公益資本主義研究の特別寄稿は週刊ダイヤモンドの10月10日号(10月5日発売)に載りました。株主至上主義・至上万能主義に陥ったアメリカ経済の問題を分析して、資本主義を考え直す必要性を明確にしています。10月17日号に載る記事の続きでは、公益資本主義の思想を説明して、改革の方向性について書いています。ご関心のある方はぜひご覧になって下さい。

特別寄稿 「株主至上主義・市場万能主義の限界」

週刊ダイヤモンド 特別寄稿 「株主至上主義・市場万能主義の限界」

花王前会長による「新しい資本主義」のレビュー記事

花王前会長の後藤卓也氏は日経ビジネスの9月7日号に、公益資本主義研究を一緒に進めている原丈人氏の著書「新しい資本主義」をレビューしています。(9月21日現在、「新しい資本主義」はアマゾンの経済学新書のランキングでは2位となっています。)後藤氏は企業を経営しながら株主至上主義に対して疑問を抱くようになったそうです。レビュー記事では下記のように書いています。

社員がお客様のために一生懸命に働くことでしか会社は成長できない。業績も、株主への配当もその結果に過ぎない。

短期志向のアクティビスト投資家を厳しく批判しています。

とにかく配当を吹き出させて、株価が上昇したら売り抜ける。その後、企業がどうなろうと知ったことではない。

最後に公益資本主義に触れています。

作者が「金融資本主義」に代わるものとして考えているのは、事業を通じて「公益」に貢献することを最大の価値として認める「公益資本主義」。そこにこそ日本の活路がある、という著者の前向きさには、読後、勇気づけられる人が多いのではないか。

大企業経営の経験者である後藤氏のコメントは、公益資本主義の実現おいて大変意味のある評価だと思います。

新任役員の8割以上は「公益資本主義に共感できる」

日本能率協会の「第12回新任役員の素顔に関する調査」の結果では、日本における株主至上主義の影響が減り始めているように見える。株主至上主義は格差、短期志向、信頼の崩壊などの問題につながるので、喜ぶべき事態である。ニュースリリースには下記のように書いてある。

2000年調査以来、「終身雇用は日本的経営の基本」と考える人が増加の傾向(2000年0.9%→2009年9.2%)、半面「企業の繁栄が優先でリストラを講じるべき」が減少傾向(2000年15.2%→2009年3.8%)と、ここでも日本的経営への回帰が見られる

以前の調査結果と比較して、株主の利益を最重視すると答える割合が顕著に下がっている。

日本能率協会「第12回新任役員の素顔に関する調査」から(図28.だれの利益を最重視するか)

日本能率協会「第12回新任役員の素顔に関する調査」から(図28.だれの利益を最重視するか)*クリックすると拡大イメージが見られます

調査には公益資本主義についての問いかけもあった。8割以上の新任役員は公益資本主義に共感できると答えた。

日本能率協会の「第12回新任役員の素顔に関する調査」から(図30.「公益資本主義」について )

日本能率協会の「第12回新任役員の素顔に関する調査」から(図30.「公益資本主義」について )*クリックすると拡大イメージが見られます

非常に興味深いデータがたくさん紹介されているので、関心を持たれた方はぜひニュースリリースをご覧下さい

公益資本主義のメーリングリストから 公益経営の教育の必要性

公益資本主義研究プロジェクトのメーリングリストではプロジェクトの進捗状況を報告したり公益資本主義について参考になるリソースを紹介したりしている。今回は研究員の野宮あす美氏は「公益経営の必要性」について下記のように書いている。

 企業経営者の教育を担っている多くの欧米型のビジネススクールはその目的において大きな変化をし、短期志向の経営を引き起こす一因となっています。ハーバード・ビジネス・スクールのラケシュ・クラナ教授によると、もともとビジネススクールは1900年頃に実務家の道徳的なリーダーシップと倫理観の育成を目的とした職業教育としてはじまりました。しかし、今では教育内容が大きく変化し、株主価値を向上させるための経営方式を教える場となっています。その一つのきっかけとなったのが、1989年代に設立されたシカゴビジネススクールです。教育課程の中で「企業の存続目的が株主価値の向上である」としました。さらに、多くのビジネススクールの金融の授業から金融工学の分野が派生し、株主価値を高めるための経営方式なども発明されるようになりました。授業では株主価値をあげるための様々な経営手法が教えられ、例えば借金をして節税をすることが株主価値をあげるために良いなどと教えられるようになりました。ファイナンスの授業では社会における個人は自己の利益追求、企業は自己の株主価値の向上のためだけにしか行動しないと教えることも多いのが現状です。このような教育を受けた経営者は株主価値向上を最優先する株主至上主義的な経営を実施します。

クラナ教授は経営者にプロフェッショナル・スタンダードを持たせるべきだという非常に面白い提案をしている。経営者はお医者や弁護士と同じように社会に重要な役割を任せられているので、その役割に見合う価値観も必要である。

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